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世界各地を移動する中での出来事や気づきをお届けします。
今週は東京にいます。
約1ヶ月ぶりの東京を歩いていると、道路沿いや空き地に雑草がぼうぼうと生い茂っていました。時間の流れを感じるとともに、夏の終わりを告げられているような気がします。オレゴンでの1ヶ月は長いようであっという間で、かつ濃密でした。なんだか新しい自分になって帰ってきたような、不思議な感覚を味わっています。
さて、今回帰国する際、滞在していた街から空港まではバスで向かうことにしました。ウーバーを呼べば簡単に移動できますし、現地でお世話になった方にも「空港まで送っていくよ」と声をかけていただきました。それでもなぜか、直感的にバスを使いたい気分だったのです。
しかし、乗ったのはその日の最終便でした。1時間に2本しかバスは来ず、最終は午後7時半。終点には着いたものの、乗り継ぎのバスはすでになくなっていました。結局そこから、スーツケースをガラガラと引きながら、途中でスーパーに寄ったり、In-N-Outでバーガーを食べたりしつつ、1時間ほどかけて空港まで歩くことになりました。
その道中で、ふとこれまでの記憶が蘇ってきたのです。思い返せば、それまでの仕事を辞めて放浪の旅に出たのは約二年前。初めに向かったのはベトナムのダナンで、到着してから知人と合流し、空港からガラガラとスーツケースを引きながらホテルへ向かったのでした。同じ音、同じ姿勢、同じ夜の空気。二年少しの時を経て、僕の旅は一つの終わりを迎えているのだろう。そんなことを思いながら、少し感傷的になっていました。
この間、さまざまなことがありました。訪れた国は、ベトナム、タイ、ウズベキスタン、ジョージア、マレーシア、インドネシア、スリランカ、アメリカ、メキシコ。後半はぐるぐると東南アジアを回るような形になりました。初めは写真を撮ったり本を読んだりして過ごしていましたが、途中からは知り合いのスタートアップの立ち上げを手伝ったり、デザインコンサルティングファームでリサーチャーとして不動産デベロッパーのブランディングプロジェクトに関わったり、複数の企業の新規事業立ち上げに参画したりもしました。友人とスタートアップを立ち上げてみたり、バイブコーディングでアプリを作ってリリースしてみたり、Kindle本を何冊か出したり。サイケデリックの勉強を始めたのも、つい一年ほど前のことです。そして長い「リセット期間」を経て、アメリカのスタートアップアクセラレーターの日本マネージャーとして、新しい道を歩むことになりました。
こうして並べてみると、神話学者ジョーゼフ・キャンベルが『千の顔をもつ英雄』で示した「ヒーローズ・ジャーニー」の構造に、驚くほど重なっていることに気づきます。慣れ親しんだ日常を離れ、見知らぬ土地で試練を受け、仲間や師と出会い、何かを手にして帰ってくる。スター・ウォーズをはじめとする多くの物語も、この型に沿って作られていることで知られています。
面白いのは、キャンベルがもっとも難しいと語ったのが、旅立ちでも最大の試練でもなく、最後の「帰還」だったということです。異界で得たものを、もとの世界の言葉に翻訳して持ち帰る。ここが一番難しい。たしかに、異国で感じたことをそのまま日本語で話しても、たいていは「いい経験したね」の一言で終わってしまいます。持ち帰った宝は、日常世界で使える形にしない限り、ただのお土産話になってしまうのです。
そしてもう一つ、物語の主人公はたいてい、最初の「冒険への誘い」を一度は断ります。僕にも覚えがあります。会社を辞めると決めるまでは随分と時間がかかりました。逆に言えば、あのとき断りきれなかった何かが、二年分の距離を勝手に歩かせてしまったのだとも言えます。空港まで歩くと決めたあの日の直感も、案外それと同じ種類のものだったのかもしれません。ウーバーに乗ってしまっては、たぶん何も思い出さないまま日本に着いていたはずですから。
そう考えると、僕にとっての本当の試練は、これから始まるのかもしれません。二年間の放浪で得たものを、今後の仕事の中で、どう還元していくのか。旅の終わりというのは、実のところ、帰還の始まりでしかないわけです。
空港までの1時間、スーツケースの車輪が立てる音は、二年前のダナンとまったく同じでした。違っているのは、それを引いている人間のほうです。道端の雑草が勝手に伸びて夏の終わりを告げるように、季節は誰の許可も得ずに移り変わっていきます。さて、次の季節に何を残すのか。どうやらそれは、ここから先の話のようです。
🔭 越境ノート
面白いと思ったニュースや視点をお届けします。
FDA、食品成分の規制強化へ、企業に新原料の届け出を義務づける規則案
トランプ政権が月曜、食品会社に新しい原材料の使用をFDAへ届け出るよう義務づける規則案を発表しました。これまで企業は「一般に安全と認められる(GRAS)」と自ら判断すれば審査なしに成分を導入でき、少なくとも1,000種類の増粘剤や香料などが、安全性の裏づけが乏しいまま食品に入ってきました。ケネディ厚生長官はこの抜け穴を塞ぐと表明し、既存成分の公開リストを作る方針も示しています。ただし企業が自ら安全と判断して審査完了前に使用を始められる点は変わらず、専門家からは高果糖コーンシロップなど超加工食品の主要成分に踏み込んでいないこと、人員削減後のFDAに審査能力があるのかという懸念も出ています。
第二次トランプ政権は一次政権と比べると、やややりたい放題に見え支持率も下がっていますが、この分野は意外とやるべきことをやっているように僕には見えます。先日『Food Fix Uncensored』という本を紹介したときにも思いましたが、大手企業のロビイング活動と、規制する側とされる側を人材が行き来する「回転ドア」があるかぎり、この種の抜け穴は誰も触りたがりません。GRASは半世紀以上そのまま放置されてきたわけで、そこに手をつけただけでも意味はあると思います。
AIPAC系の資金がミシガン州上院予備選を席巻
ミシガン州の民主党上院予備選では、選挙資金そのものが最大の争点になりました。穏健派で党主流派に支持されるヘイリー・スティーブンス下院議員は、6団体ほどの外部グループから約6,200万ドルの広告支援を受け、うち半分以上は米国で最も影響力のある親イスラエル団体AIPACのスーパーPACによるものでした。進歩派のアブドゥル・エルサイード氏側との資金差は約9対1。エルサイード氏はこれを逆手に取り、ムスリム人口の多い同州でAIPACからの支援を弱点として攻撃し、「見返りのある献金だ」と批判しました。スティーブンス氏を支援した団体はいずれも献金者を開示しない非営利団体が資金源で、ダークマネーの問題も浮かび上がっています。
これは逆に、ロビイング活動と資金提供がアメリカの民主主義を揺るがしているように見える一連のニュースです。予備選ひとつに6,200万ドル、資金差は9対1。もはや政策論争というより、札束で殴り合っているとしか言いようがありません。毎朝聴いているアメリカのポッドキャストでも最近はこんな話ばかりで、「誰がいくら出したか」自体が最大の争点になっています。しかもその札束の出どころは、献金者を明かさない団体ばかり。殴られている側にも、誰に殴られているのかは分からないままです。
トランプ氏、イランの脅威を受け機内食トラックで極秘に乗り換えたと報道
トランプ米大統領が7月8日、トルコ・アンカラでのNATO首脳会議を離れる際、イランの脅威を受けて極秘に搭乗機を乗り換えていたと米メディアが報じました。ワシントン・ポストによると、大統領はテレビカメラの前で旧型の大統領専用機に乗り込んだあと、機体の反対側で高さを合わせた機内食搬入用トラックを使い、副大統領がよく使う小型のC-32A軍用機へ移されたといいます。同乗した記者や一部の職員は知らされず、窓のシェードを下ろすよう求められていました。米当局はCBSに、機体をミサイルで狙う信頼性の高いイランの脅威を探知していたと説明。ホワイトハウスは乗り換えの事実を認めていません。
そう言えば、日本に帰ってきてTBSのVIVANTの新しいシーズンを観はじめましたが、どうも描き方がリアリティに欠けるようでイマイチです。CIAやスパイものの映画が好きなのですが、この一件は、フィクションよりよほど地味な道具立てで成立しているところが面白い。レーザーでもハイテク装備でもなく、機内食を運ぶトラックの荷台です。要人警護のリアルとは、結局「相手からどう見えているか」を操作することなのだと分かります。
却下から2年、レジリエントがPTSD向けMDMAの承認申請を静かに再提出
PTSD向けMDMA治療薬の承認申請が、FDAによる却下から約2年を経て静かに再提出されたと、Psychedelic Alphaが関係者の話として伝えました。申請元はLykos Therapeuticsから社名を変えたレジリエント・ファーマシューティカルズです。FDAは審査完了通知書で、「好ましい有害事象」の未収集、効果の持続性データの不足、参加者のMDMA使用歴の多さなどを問題視し、新たな第3相試験を求めていました。同社は自前で大規模試験を行う代わりに、退役軍人省(VA)の研究など第三者のデータを参照し、健康な32人を対象とする第1相試験を新たに実施したといいます。承認されれば「Rysanso」の名で市場に出る可能性があります。
早ければ来年初めにもシロシビン製剤がFDAの承認を受けるとされていますが、その次はMDMA。印象的なのは、レジリエントが今回まったく沈黙していることです。会社のウェブサイトはドメインのパーキングページのままで、2024年にあれだけ注目を浴びた企業とは思えない静けさ。却下理由が公開されている以上、承認されたらされたで厳しく検証されるという読みもあるのでしょう。仮に通ったとしても、全セッションの録画義務のような重いREMSが付けば、実際に受けられる人はごく限られます。日本から見ていると、承認そのものよりも「どんな条件で使えるようになるか」のほうが、はるかに大きな論点だと感じています。
📚 今週の一冊
いま読んでいる本、最近読んだ本から一冊を紹介します。
怪獣記
僕の好きな作家の一人、高野秀行さんの作品です。読んでいると、なんだか自分も一緒に冒険しているような気分になるのが楽しい。今回の舞台はトルコ東部のワン湖、目的は「ジャナワール」と呼ばれる未確認生物の正体を突き止めることです。
出だしは、いかにもUMA探索記といった調子で進みます。有名な目撃ビデオが本物かフェイクかを検証し、四十八人の目撃者を集めた地元大学の教授に会いに行く。ところが取材を進めるうちに、話は思わぬ方向へ転がっていきます。教授のもとにいたクルド人の青年が、こう言い放つのです。ジャナワールが話題になった一九九三年から九七年は、ちょうどPKKと政府軍の戦闘が激化し、何十万というクルド人が圧迫を受けてワン周辺へ移住していった時期だった。その深刻な問題から目をそらすために、政府がこの話題を持ち出したのだ、と。
僕が面白いと思ったのは、まさにこの部分です。未確認生物という一見他愛のない切り口が、クルド人問題という現代トルコの最大の争点へと接続されていく。フィクションとリアリティのはざま、というより、両者をつなぐ接着剤のような役割を怪物が果たしている。実際、決定的とされた映像を撮った人物は極右の副知事につながる男で、テープは三千五百ドルでテレビ局に売り払われ、手元にはもう残っていない。トルコ語で「ヤラセ」を意味する「アスパラガス」という言葉が、旅のあいだじゅう一行の合言葉になっていきます。
それでも高野さんは、政治もヤラセも観光宣伝もすべて剥ぎ取った先にある「実体」を見ようとします。十七世紀の旅行家エヴリヤ・チェレビがワン湖の竜について書き残していたと知り、現地のガイドとドライバーまで本気になっていく展開には思わず笑ってしまいました。そして終盤、自分自身が湖で何かを目にしたとき、言語表現で飯を食っているはずの彼が、その大きさも数も動きも言葉にできない。この率直さこそが、高野作品のリアルなのだと思います。
📎 活動のご紹介
ブログ:Psychedelic Tokyo
世界中の最新のサイケデリック医療に関する情報を日本語で発信しています。毎週月曜・木曜更新予定。ニュースレターも発行しています。
ポッドキャスト:サイケデリック・フロンティア
サイケデリックファシリテーターのユウスケと精密栄養カウンセラーのナカハラがサイケデリック医療の最前線についてお届けするポッドキャスト。長らく「怪しい・危険」として避けられてきたサイケデリックは、今、世界中の精神医療の現場を変えようとしています。最新の研究結果から、哲学や宗教、カルチャーとの関係性まで。従来の治療では届かなかった心の問題に、新しい視点を提供する番組です。毎週水曜日の朝6時配信。各種プラットフォームでお聞きいただけます。
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